充実した最期を迎えるために、今から考えておきたいこと
人生の終末期について考えることは、決して後ろ向きなことではありません。むしろ、自分らしい最期を迎えるための大切な準備といえるでしょう。
生命保険文化センターの2024年度調査(2025年1月発行)によると、2019年から2024年に生命保険に加入した人のうち、12.4%が「葬儀費用の準備」を加入理由に挙げています。特に65歳以上の方、とりわけ75歳から79歳の年齢層でこの割合が高くなっています。
老後の経済的な備えについて考える際、多くの方が年金額や医療費に目を向けがち。しかし、人生の終末期に必要となる費用についても、今のうちから計画を立てておくことで、ご家族の負担を軽減できます。そして何より、自分らしい最期を迎えられるのです。
このような準備を「終活」と呼びますが、保険はその中でも重要な役割を果たします。では、具体的にどのような費用がかかり、どのような保険が役立つのでしょうか。
人生の最後にかかる費用の実態
葬儀費用の平均額は約119万円
鎌倉新書が2024年3月に実施した「第6回お葬式に関する全国調査」によると、葬儀にかかる費用の平均総額は約119万円。前回2022年調査の約111万円と比べて、約8万円増加しています。
葬儀の種類によって費用は大きく異なります。一般葬では約161万円、家族葬では約106万円、一日葬では約88万円、直葬(火葬のみ)では約43万円が平均的な費用です。
現在、葬儀の形式は多様化しており、家族葬が全体の50.0%を占めています。一方、一般葬は30.1%と、以前と比べて減少傾向に。コンパクトな葬儀を選ぶ方が増えているとはいえ、100万円前後の費用は必要になる状況といえるでしょう。
終末期医療費用も考慮に入れる
葬儀費用以外にも、終末期には医療費がかかります。特に緩和ケア病棟やホスピスを利用する場合、差額ベッド代として1日あたり数千円から1万円以上かかることも。
また、厚生労働省のデータによると、がんの罹患率は年齢とともに上昇。75歳以上では全体の45.4%を占めており、日本人の生涯でがんに罹患する確率は、男性で65.5%、女性で51.2%と、約2人に1人という高い数値です。
このような状況を踏まえると、医療費と葬儀費用を合わせて、少なくとも200万円程度の備えがあると安心でしょう。
人生の終末期に役立つ保険の種類
終身保険(一生涯の死亡保障)
終身保険は、保障が一生涯続く生命保険です。いつ亡くなっても死亡保険金が支払われるため、葬儀費用の準備や相続対策として活用されています。
特に一時払い終身保険(保険料を一括で支払う形式)は、相続対策として効果的。国税庁の規定では、死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。例えば、法定相続人が3人の場合、1,500万円までは相続税がかかりません。
60代の方の場合、退職金を活用して500万円から1,500万円程度の一時払い終身保険に加入するケースが増えています。月払いの保険料負担がなく、すぐに相続対策効果が発揮されるメリットがあるのです。
ただし、一時払い終身保険には注意点も。生命保険料控除(所得税・住民税の軽減)が支払った年のみしか適用されない点や、一度支払うと簡単には引き出せない流動性の問題があります。緊急時に使える予備資金(生活費の2から3年分、目安として600万円から900万円)を確保した上で加入することが大切です。
葬儀保険(少額短期保険)
葬儀保険は、葬儀費用に特化した保険商品。多くの商品が30万円から300万円程度の保険金額で設定されており、月額数千円程度の保険料から加入できます。
この保険の大きな特徴は、加入年齢の上限が高いこと。一般的な生命保険は60代から70代が上限ですが、葬儀保険は70歳以上でも加入でき、商品によっては89歳まで加入可能です。また、健康状態の告知も比較的簡単な場合が多く、高齢の方でも加入しやすくなっています。
貯蓄はあるけれど葬儀費用を別に用意しておきたい方や、お子様に経済的負担をかけたくない方に適しているでしょう。ただし、多くは掛け捨て型で解約返戻金がないこと、長期間加入すると総支払保険料が保険金を超える可能性があることに注意が必要です。
リビングニーズ特約(余命6ヶ月以内の生前給付)
リビングニーズ特約は、余命6ヶ月以内と診断された場合に、死亡保険金の一部または全部(最大3,000万円)を生前に受け取れる特約。多くの生命保険会社が無料で提供しており、契約時または契約途中でも付加できます。
生命保険協会の2024年データによると、2023年度のリビングニーズ特約の支払総額は約324億円、支払件数は5,267件で、2018年と比べて約1.5倍に増加しています。利用者が増えている背景には、終末期を自分らしく過ごしたいというニーズの高まりがあるのです。
2025年4月からは、大手生命保険会社9社が電子診断書とオンライン本人確認の導入を開始しました。これにより、審査期間が従来の平均14日から10日から12日程度に短縮されています。
受け取った給付金は、緩和ケア病棟の差額ベッド代、家族との最後の旅行、お子様の教育費の前払い、葬儀費用の準備など、自由に使えます。国税庁の規定では、リビングニーズ特約による給付金は所得税・住民税ともに非課税です。
注意点としては、生前給付した分だけ遺族が受け取る死亡保険金が減ること、未使用の残額は相続財産となり生命保険の非課税枠が適用されないことがあります。ご家族との事前の話し合いが大切でしょう。
年代別の保険選びのポイント
50代の方へ:選択肢が豊富な今がチャンス
50代は、まだ収入があり、まとまった保険料の支払いが可能な世代。生命保険文化センターの調査によると、50代男性の平均年間保険料は約25.5万円(月額約2万1,250円)、女性は約19.0万円(月額約1万5,833円)と、最も保険料支払額が高い世代です。
この年代の方には、終身保険(一時払いまたは短期払い)で相続対策を開始することをお勧めします。また、リビングニーズ特約は必ず付加しましょう。50代であれば健康状態も比較的良好で、加入できる保険の選択肢が豊富なのです。
60代の方へ:退職金を活用した計画的な準備
60代は退職前後の大切な時期。退職金を活用して一時払い終身保険に加入する方が増えています。保険料の平均は月額約1万5,200円で、50代と比べて減少傾向に。これは、お子様の独立や定年を機に保険を見直す方が多いためです。
相続対策なら500万円から1,500万円程度の一時払い終身保険、葬儀費用の準備なら100万円から200万円程度の葬儀保険が選択肢となります。ただし、緊急予備資金として生活費の2から3年分は必ず手元に残しておきましょう。将来の医療・介護費用として500万円から1,000万円程度も確保しておくことが望ましいです。
70代の方へ:少額短期保険が現実的な選択
70代になると、加入できる保険商品が限られてきます。平均保険料は月額約1万2,000円で、60代と比べてさらに減少。これは、終身保険や医療保険の払込みが完了する方が増えるためです。
この年代の方には、少額短期保険(葬儀保険)が現実的な選択肢でしょう。89歳まで加入できる商品もあり、健康状態の告知も比較的簡単です。まとまった資金がある場合は、一時払い終身保険も相続対策として有効ですが、流動性を確保することを最優先に考えたいところ。
保険選びで注意すべきこと
手元資金を残すことの重要性
保険に入ることは大切ですが、手元資金を残すことはもっと重要。資金計画の優先順位を守りましょう。
第一に、緊急予備資金として生活費の2から3年分(600万円から900万円が目安)を確保します。第二に、医療・介護費用の準備として500万円から1,000万円を確保。第三に、葬儀費用として100万円から200万円を準備します。第四に、余裕があれば相続対策を検討するという順序です。
88歳を超えて月払い保険に加入し続けると、総支払保険料が保険金を上回る「元本割れ」のリスクがあります。長期的な視点で、貯蓄と保険のバランスを考えることが大切でしょう。
受取人指定の注意点
保険金の受取人を誰に指定するかは、とても重要です。受取人を「相続人」と指定した場合、各相続人が法定相続分に応じて受け取ります。特定の相続人のみを指定すると、他の相続人との間で不公平感が生じる可能性も。
また、結婚、離婚、再婚、お子様の誕生など、ライフイベントごとに受取人を見直すことが大切です。離婚後に受取人を変更していないと、元配偶者に保険金が支払われてしまうこともあります。
相続放棄をすると法定相続人でなくなるため、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が使えなくなります。このような複雑な状況については、ファイナンシャルプランナーや税理士に相談することをお勧めします。
金融庁・消費者庁の注意喚起にも目を向ける
金融庁は2025年7月に「保険モニタリングレポート」を公表し、外貨建て一時払い終身保険の規制強化を発表しました。銀行窓口での販売に制限が加わり、手数料率の見直しが行われています。不適切な「乗り換え勧誘」を防ぐための措置です。
また、2025年5月には改正保険業法が成立し、不正請求事案の再発防止に向けた制度強化が実施されました。これにより、保険会社や保険代理店の管理態勢がより厳格になっています。
国民生活センターには、高齢者を狙った不適切な保険勧誘や、説明不足によるトラブルの相談が寄せられています。「必ず儲かる」「絶対に得」といった断定表現や、特定の金融商品への一方的な誘導には注意が必要でしょう。
保険を選ぶ際は、複数の専門家の意見を聞き、ご自身で納得してから決めましょう。
今からできる具体的なアクション
充実した人生の最後を迎えるための保険選びは、決して急ぐ必要はありません。焦らず、じっくりと計画を立てましょう。
まず、現在加入している保険の内容を確認してみてください。保険証券を見て、死亡保障額、リビングニーズ特約の有無、受取人が誰になっているかを確認します。次に、葬儀の希望を家族と話し合いましょう。一般葬、家族葬、直葬など、どのような形式を希望するかによって必要な費用が変わってきます。
そして、手元資金を計算してみます。緊急予備資金、医療・介護費用、葬儀費用として必要な金額を確保できているか確認しましょう。余裕があれば、保険による相続対策を検討します。
最後に、ファイナンシャルプランナーへの無料相談を活用してみてはいかがでしょうか。保険ショップや日本FP協会では無料相談会を実施しています。複数の専門家の意見を聞き、ご自身に合った選択をすることが大切です。
人生の最後を自分らしく迎えるための準備は、今からでも遅くありません。ご家族の負担を軽減し、安心して人生の最終章を迎えるために、できることから始めてみましょう。