相続準備、何から始めればいいか迷っていませんか?
「遺言書を書かなければ」と思いながらも、何から手をつければいいのか分からない。そのような悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、遺言書を作成する前に、もっと基本的で重要なステップがあります。それが「財産目録」の作成です。
財産目録とは、自分が持っている財産を一覧表にまとめたもの。預貯金、不動産、株式、保険、そして負債まで、すべてを書き出します。法的な義務はありませんが、相続をスムーズに進めるために欠かせない準備なのです。
この記事では、財産目録の作り方から遺言書との違い、そして今の時代に必要なデジタル資産の管理まで、詳しく解説していきます。
財産目録とは?遺言書との違いを知る
財産目録は「財産のリスト」
財産目録は、自分が保有する資産と負債を一覧にした書類です。銀行口座の残高、不動産の詳細、株式の保有状況、生命保険の内容などを記録します。
ただし、財産目録には法的効力がありません。「この預金は長男に」と書いても、その通りに分けられる保証はないのです。あくまでも「何がどこにあるか」を明確にする資料。財産を把握するための地図のようなものと考えてください。
遺言書は「財産の分け方を指定する文書」
一方、遺言書は法的効力を持つ文書です。「この不動産は長男に、預金の半分は長女に」といった具体的な指定ができます。
遺言書には主に2つの種類があります。自筆証書遺言(すべて自分で書く遺言書)と公正証書遺言(公証役場で公証人に作成してもらう遺言書)です。日本公証人連合会によると、公正証書遺言の方が形式不備で無効になるリスクが低く、確実性が高いとされています。
財産目録と遺言書は「両方必要」
財産目録なしに遺言書を書こうとすると、記載漏れが起こりやすくなります。どんな財産があるか把握していないまま遺言書を作成しても、「書き忘れた財産」が出てきてしまう。その財産については、結局、相続人全員で話し合って分けることになるのです。
まず財産目録で全体を把握し、その後に遺言書で分け方を決める。この順序が、トラブルを防ぐ王道と言えるでしょう。
なぜ今、財産目録が必要なのか?統計から見る相続の実態
相続税の課税対象が約10人に1人に
国税庁の令和5年分(2023年)の統計によると、死亡者数は157万6,016人で、そのうち相続税の申告をした人は15万5,740人でした。課税割合は9.9%。つまり、約10人に1人が相続税の対象となっています。
この数字は平成27年(2015年)の基礎控除引き下げ以降、上昇を続けています。平成26年までは4%台前半だった課税割合が、今では約10%。相続税は「お金持ちだけの問題」ではなくなってきました。
高齢世帯の平均貯蓄額は2,509万円
総務省統計局の家計調査報告(2024年)を見てみましょう。世帯主が65歳以上の二人以上世帯の平均貯蓄額は2,509万円です。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人なら、基礎控除は4,800万円です。平均貯蓄額だけなら基礎控除内に収まりますが、不動産や有価証券を含めると、基礎控除を超える可能性が高まります。
「うちにはそれほど財産がないから」と思っていても、実際に計算してみると意外に多いケースが珍しくありません。
相続トラブルの76%は遺産額5,000万円以下
最高裁判所の司法統計(令和6年度)によると、家庭裁判所への遺産分割の申立件数は1万5,379件。この20年で約1.7倍に増えています。
注目すべきは、トラブルになった相続の約76%が遺産額5,000万円以下だという点です。遺産額が少ない「普通の家庭」でこそ、相続争いが起きやすい。財産目録がないと、「隠し財産があるのでは?」という疑心暗鬼を生んでしまうこともあるのです。
財産目録に記載すべき項目と作成の手順
記載すべき主な項目
財産目録には、プラスの財産とマイナスの財産(負債)の両方を記載します。国税庁や各種専門家の資料を参考にすると、以下の項目が基本です。
(A)預貯金
銀行名、支店名、口座の種類(普通預金・定期預金など)、口座番号、金額、名義人を記載します。複数の銀行に口座がある場合、すべて漏れなく書き出しましょう。
(B)不動産
登記簿謄本を参考に、所在地、地番、地目(宅地・田・畑など)、地積(面積)、評価額を記載します。建物がある場合は、建物の構造や床面積も記録してください。
(C)有価証券
証券会社名、支店名、口座番号、保有している株式の銘柄名、保有株式数を記載。投資信託を保有している場合も同様に記録します。
(D)保険
生命保険や損害保険の保険会社名、保険の種類、保険証券番号、保険金額(または解約返戻金額)を記載しましょう。
(E)その他の資産
自動車、貴金属、骨董品など、価値のある動産も記録します。後で説明しますが、デジタル資産も忘れずに。
(F)負債
住宅ローン、自動車ローン、借入金などがある場合、借入先、借入総額、月々の返済額、債務残高、完済予定日を記載します。
テンプレートの入手方法
財産目録には法律で定められた書式はありません。自由に作成できます。ただし、参考となるテンプレートは国税庁のウェブサイトや税理士事務所のサイトから無料でダウンロードできます。Excel形式のものが多く、数字の計算も自動でできて便利です。
作成の手順
まず、通帳や証券会社からの報告書、保険証券、登記簿謄本などを集めます。次にテンプレートに沿って、一つずつ記入していきましょう。
わからない項目があれば、銀行や証券会社に問い合わせて確認を。特に不動産の評価額は、固定資産税の納税通知書に記載されている評価額を参考にできます。
すべて記入したら、プラスの財産からマイナスの財産(負債)を差し引いて、正味の財産額を計算します。この金額が、相続税の基礎控除と比較する基準になるのです。
デジタル資産の管理も忘れずに
デジタル資産とは何か
近年、相続で見落とされがちなのが「デジタル資産」です。オンライン銀行の口座、ネット証券の口座、暗号資産(仮想通貨)、電子マネー、ポイント、マイレージなど、インターネット上にある財産を指します。
日本FP協会の2024年4月の資料によると、デジタル資産は発見が難しく、相続人が存在に気づかないまま放置されるケースが増えているそうです。
デジタル資産の3つの課題
第一に、発見が困難。郵便物が届かないため、相続人が存在を知らないまま時間が経過してしまいます。
第二に、アクセスが困難。パスワードや二段階認証があり、本人以外はログインできない仕組みになっています。
第三に、税務リスク。相続税は相続開始時点の評価額で課税されます。発見が遅れて価値が下がっていても、相続時の価格で税金を払わなければなりません。
デジタル資産の管理方法
財産目録にデジタル資産も記載しましょう。サービス名、ID、パスワード、残高や評価額を書き出します。ただし、パスワードを書いた財産目録は厳重に保管してください。
エンディングノート(人生の最期に向けて希望や情報をまとめるノート)やエンディングアプリを活用する方法もあります。家族に「デジタル資産がどこにあるか」を伝えておくことが、最も大切なポイントです。
遺言書と財産目録、それぞれの役割
財産目録は「準備のための資料」
財産目録は、相続人が財産の全体像を把握するための資料です。法的効力はありませんが、相続税の申告や遺産分割協議をスムーズに進めるために不可欠。
また、財産目録があると、遺言書を作成する際にも漏れがなくなります。「この財産をどう分けるか」を考える前に、「どんな財産があるか」を知る。その土台が財産目録なのです。
遺言書は「意思を残す文書」
遺言書は、自分の財産をどう分けたいかを法的に指定する文書。自筆証書遺言なら費用をかけずに作成できますが、形式不備で無効になるリスクがあります。
一方、公正証書遺言は公証人が作成するため、形式不備の心配がほとんどありません。費用はかかりますが、確実性を重視する方に向いています。
なお、2020年7月から「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。法務局に遺言書を預けることで、紛失や改ざんのリスクを減らせます。家庭裁判所の検認も不要になるため、相続手続きがスムーズです。
段階的な準備がおすすめ
まずは財産目録を作成し、次にエンディングノートで希望を整理。その後、必要に応じて遺言書を作成する。この段階的なアプローチが、無理なく確実に準備を進めるコツです。
専門家への相談も検討を
相続手続きは専門家の連携が必要
相続手続きには、登記、税務申告、書類作成など、多岐にわたる作業があります。一人の専門家ですべてを完結させることは難しく、複数の専門家が連携することが一般的です。
司法書士
不動産の所有権移転登記を担当します。費用の相場は27.5万円程度から。相続によって土地や建物の名義を変更する際に頼りになる存在です。
税理士
相続税の申告と遺産分割協議書の作成を担当。費用は遺産総額の0.5~1%程度が目安です。遺産総額1億円未満なら、30~60万円が一般的な費用とされています。
行政書士
相続に関する書類作成や名義変更手続きをサポートします。費用は20万円程度から。他の士業に比べて費用を抑えられる可能性があります。
早めの相談がトラブルを防ぐ
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。不動産の相続登記は、令和6年(2024年)4月から3年以内が義務化されました。
期限に追われてバタバタするより、元気なうちに専門家に相談しておく方が安心でしょう。「まだ早い」と思わず、「今だからこそできる」と考えてみてはいかがでしょうか。
今からできる具体的なアクション
財産目録の作成は、年齢に関わらず今から始められる相続準備です。難しく考えず、一つずつ進めていきましょう。
ステップ1:財産の棚卸し
銀行の通帳、証券会社からの報告書、保険証券、不動産の登記簿謄本を集めます。自宅の引き出しや書類棚を確認してください。
ステップ2:テンプレートの入手
国税庁のウェブサイトや税理士法人のサイトから、無料のExcelテンプレートをダウンロードしましょう。
ステップ3:記入する
テンプレートに沿って、財産の詳細を一つずつ記入します。わからない項目は金融機関に問い合わせて確認を。
ステップ4:デジタル資産も記録
オンライン銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、ポイントなど、デジタル資産も忘れずに記載しましょう。ID・パスワードも記録し、厳重に保管してください。
ステップ5:家族に伝える
財産目録を作成したら、その存在を家族に伝えます。「どこに保管してあるか」を共有することが大切です。
ステップ6:定期的に更新
財産の状況は時間とともに変わります。年に一度、誕生日や年末などのタイミングで見直しましょう。
まとめ:今からできる、家族への最高の贈り物
遺言書を作成する前に、まず財産目録を作る。このシンプルなステップが、残された家族の負担を大きく減らします。
国税庁の統計では、相続税の課税割合は約10人に1人の9.9%。総務省の調査では、65歳以上の世帯の平均貯蓄額は2,509万円。一方、最高裁判所の統計では、相続トラブルの76%が遺産額5,000万円以下の家庭で起きています。
財産の多寡に関わらず、「何がどこにあるか」を明確にしておくことが、争いを防ぐ第一歩。特にデジタル資産は発見されないまま放置されるリスクが高まっています。
財産目録の作成に、早すぎるということはありません。思い立った今が、始めるベストタイミングです。一枚の紙から、家族への思いやりを形にしていきませんか。