介護の備えで悩んでいませんか
「親の介護が必要になったら、どのくらい費用がかかるのだろう」「自分が介護状態になったとき、子どもに負担をかけたくない」。そんな不安を抱えている方は少なくありません。
40歳になると、誰もが公的介護保険に加入します。しかし、それだけで十分なのでしょうか。民間の介護保険に入るべきか、迷っている方も多いはずです。
この記事では、介護にかかる実際の費用や公的制度の内容を確認しながら、民間介護保険の必要性について考えていきます。ご自身やご家族の状況に合わせて、納得できる判断をしていただければと思います。
介護にかかる費用の実態
平均的な介護費用はいくら?
生命保険文化センターが2024年度に実施した調査によると、介護にかかる費用の実態が明らかになっています。
まず、介護が必要になった際の一時的な費用。住宅のバリアフリー改修や介護用ベッドの購入などで、平均47.2万円かかります。決して小さな金額ではありませんね。
次に、毎月かかる費用です。全体の平均は月額9.0万円。ただし、在宅介護か施設介護かで大きく異なります。在宅介護の場合は月額5.3万円ですが、施設に入居すると月額13.8万円。実に2.6倍の差があるのです。
介護期間の平均は55.0カ月(4年7カ月)です。4年を超えて介護を続けている方も全体の約4割に上ります。
総額で見るとどうなる?
では、介護にかかる総費用を試算してみましょう。
在宅介護の場合、一時費用47.2万円に月額5.3万円を55カ月分加えると、約339万円になります。一方、施設介護では47.2万円に月額13.8万円を55カ月分加えると、約806万円。施設介護を選ぶと、800万円を超える費用が必要になるわけです。
認知症の場合、さらに費用がかさみます。厚生労働科学研究によると、個人の平均総額は約542万円。月額では、在宅介護で約18.25万円、施設介護では約29.4万円かかるとされています。
公的介護保険だけでは足りない?
公的介護保険の仕組み
公的介護保険は、2000年に始まった制度です。40歳以上の全員が加入し、保険料を負担します。
2025年度の保険料は、65歳以上で月額6,225円、40歳から64歳で月額6,202円が全国平均となっています。
要介護認定を受けると、様々な介護サービスを利用できます。サービス費用の自己負担は、基本的に1割です。
ただし、一定以上の所得がある方は2割、現役並みの所得がある方は3割を負担します。
支給限度額に注意
公的介護保険には、要介護度ごとに月額の支給限度額が設定されています。
厚生労働省のデータによると、例えば要介護3の場合、月額270,480円が限度額です。要介護5になると362,170円まで利用できます。
しかし、ここに落とし穴があります。限度額を超えた分は全額自己負担になるのです。
施設に入居する場合、さらに注意が必要でしょう。特別養護老人ホーム(要介護5、多床室)の例を見てみます。
施設サービス費の1割負担が約26,130円、居住費が約27,450円、食費が約43,350円、日常生活費が約10,000円。合計すると月額約106,930円になります。
有料老人ホームの場合、全国平均で月額16.7万円。地域や施設によって、入居一時金が数百万円から数千万円かかることもあります。
2025年度の制度改正
2025年は、団塊の世代が全員75歳以上になる年です。介護を必要とする方の数は急増しています。2010年5月に488.4万人だった要介護認定者数は、2025年5月には725.5万人に達しました。15年間で約1.5倍に増えたことになります。
介護報酬は2024年度に1.59%引き上げられました。また、2025年8月からは、一部の施設で多床室の居住費が月額約8,000円値上げされます。今後も、保険料や利用者負担の増加が続く可能性があるのです。
民間介護保険とは?公的保険との3つの違い
現物給付と現金給付、何が違う?
民間介護保険は、保険会社が販売する介護保障商品です。公的介護保険が「現物給付」、つまり介護サービスそのものを提供するのに対し、民間介護保険は「現金給付」。保険金として現金を受け取れます。
生命保険文化センターの2024年度調査によると、民間介護保険の世帯加入率は20.1%。前回調査の16.7%から増加しており、備えの必要性を感じる方が増えていることがわかります。
民間介護保険の種類
民間介護保険には、いくつかのタイプがあります。
給付方法で分けると、一時金タイプ、年金タイプ、そして両方を組み合わせた併用タイプがあります。一時金タイプは給付条件を満たした時点でまとまったお金を受け取れます。年金タイプは継続的に年金形式で受け取れるものです。
給付条件では、公的介護保険連動型と独自基準型に分かれます。公的介護保険連動型は、要介護2以上、要介護3以上といった公的制度の認定を基準とします。独自基準型は、保険会社が設定した基準、例えばADL(日常生活動作)の制限度合いなどで判断されるのです。
民間介護保険の4つのメリット
メリット1:使い道が自由な現金給付
最大の特徴は、現金で受け取れることでしょう。公的介護保険の限度額を超えた分の支払いにも使えますし、おむつ代、施設の上乗せ費用、住宅のリフォーム費用など、用途は自由です。
介護のために仕事を休んだり辞めたりして、収入が減った家族への補填にも使えます。公的制度ではカバーできない、様々な費用負担に対応できるわけです。
メリット2:年齢に関わらず給付
公的介護保険は、原則として65歳以上が対象です。40歳から64歳の方は、加齢に起因する特定の病気の場合のみ給付を受けられます。
これに対し、民間介護保険は年齢に関わらず給付されます。若くして介護が必要になった場合でも、給付条件を満たせば保険金を受け取れるのです。
メリット3:税制優遇が受けられる
民間介護保険の保険料は、介護医療保険料控除の対象になります。所得税では年間最大4万円、住民税では年間最大2.8万円が控除されます。
具体的な節税効果を見てみましょう。年間8万円の保険料を支払っている方で、所得税率5%、住民税率10%の場合、年間約4,800円の税負担が軽減されます。長期間にわたって保険料を払い続けることを考えると、無視できない金額です。
メリット4:公的制度を補完できる
公的介護保険でカバーできない部分を補う。これが民間介護保険の基本的な役割です。長期の介護による経済的リスクを軽減し、安心につながります。
デメリットと注意すべきポイント
デメリット1:保険料の負担
当然ですが、民間保険には保険料負担が発生します。若いうちに加入すれば保険料は安くなりますが、長期間支払い続ける必要があるでしょう。反対に、高齢になってから加入すると保険料が高額になります。
生涯で支払う保険料の総額と、実際に介護が必要になった場合の給付金を比較して、納得できるかどうか。そこが判断のポイントになります。
デメリット2:給付条件が厳格
保険金を受け取るには、一定の条件を満たす必要があります。多くの商品では、要介護2以上、または要介護3以上といった基準が設定されています。
軽度の介護状態では給付されない可能性があることを理解しておきましょう。また、公的介護保険連動型の商品では、今後の制度変更によって給付条件が変わるリスクもあります。
デメリット3:インフレリスク
今から20年後、30年後に介護が必要になったとき、物価がどうなっているかはわかりません。インフレが進めば、受け取る保険金の実質的な価値は目減りしてしまいます。
例えば、月額10万円の給付金でも、20年後には今の7万円程度の価値しかない、といった可能性があるわけです。
デメリット4:中途解約時の損失
保険料の支払い期間中に解約すると、解約返戻金が少なかったり、まったくなかったりする商品もあります。長期間にわたって保険料を払い続けられるか、よく考える必要があるでしょう。
選ぶ際の注意点
保険商品を選ぶときは、給付条件を細かく確認してください。要介護度の基準だけでなく、給付開始時期(要介護認定から何日後か)、給付期間(終身型か有期型か)なども押さえておきたいポイントです。
保険料の支払い方法も検討が必要でしょう。終身払い、有期払い、一時払いにはそれぞれメリットとデメリットがあります。ご自身のライフプランに合った方法を選びましょう。
複数の保険会社の商品を比較することをお勧めします。ファイナンシャルプランナーなど専門家への相談も、選択肢の一つです。特定の商品に飛びつくのではなく、じっくり検討することが大切でしょう。
民間介護保険が向いている人、向いていない人
加入を検討した方がよいケース
公的年金以外の収入や貯蓄が少なく、介護費用の負担が心配な方。子どもや家族に経済的負担をかけたくない方。こうした方には、民間介護保険が一つの選択肢になります。
また、家族に介護経験者がいて、費用負担の実態を知っている方。認知症のリスクが気になる方。こうした方も、前向きに検討する価値があるかもしれません。
他の方法も検討したいケース
十分な貯蓄がある方は、保険に入るより貯蓄で備える方が柔軟性があります。保険料を支払うより、その分を貯蓄や投資に回す方が効率的な場合もあるでしょう。
また、持ち家があり、いざとなればリバースモーゲージ(自宅を担保にお金を借りる仕組み)などの選択肢がある方。こうした方は、民間介護保険以外の備え方も検討できます。
判断のポイント
大切なのは、ご自身の状況に合わせて判断することです。「みんなが入っているから」「保険会社の人に勧められたから」といった理由だけで決めるのは避けましょう。
公的介護保険の仕組みを理解し、ご自身の貯蓄状況、家族の状況、今後のライフプランを総合的に考える。そのうえで、民間介護保険が必要かどうかを判断してください。
もちろん、状況は変わります。今は必要ないと思っても、数年後には考えが変わるかもしれません。定期的に見直すことも大切です。
今からできる3つのアクション
1. 公的介護保険の内容を確認する
まずは、厚生労働省や市区町村のウェブサイトで、公的介護保険の仕組みを確認しましょう。どのようなサービスが受けられるのか、自己負担額はどのくらいになるのか。基本を理解することが第一歩です。
2. 介護費用の試算をしてみる
ご自身やご家族が介護状態になった場合、どのくらいの費用がかかりそうか試算してみてください。在宅介護を考えるのか、施設入居を考えるのか。それによって必要な金額は大きく変わります。
現在の貯蓄や今後の年金収入と照らし合わせて、不足しそうな金額を把握しましょう。その不足分を民間保険でカバーするのか、他の方法で備えるのかを考えるわけです。
3. 専門家に相談する
ファイナンシャルプランナーへの相談も有効です。無料相談を実施している機関もあります。日本FP協会のウェブサイトでは、CFP認定者の検索もできます。
ただし、保険の販売を前提とした相談窓口もあります。複数の意見を聞き、冷静に判断することが大切でしょう。
焦らず、自分に合った備えを
介護の備えについて、正解は一つではありません。それぞれの方の状況や考え方によって、最適な方法は異なります。
民間介護保険には、現金給付という大きなメリットがあります。一方で、保険料負担や給付条件の厳格さといったデメリットもあるのです。
大切なのは、メリットとデメリットを正しく理解し、ご自身の状況に照らして判断すること。そして、状況の変化に応じて定期的に見直すことです。
公的介護保険の仕組みを知り、ご自身の貯蓄や今後の収入を確認する。そのうえで、民間保険が必要かどうか、必要ならどのような商品がよいのかを考える。こうしたステップを踏んで、納得できる選択をしていただければと思います。
今からできることは、必ずあります。少しずつでも、将来の安心のために行動を始めてみませんか。
